米国精神医学会ではうつ病の診断基準の1つとして“死について繰り返し考える”という項目があります。
また、厚生労働省の発表では、自殺の原因が健康問題であった人のうち、うつ病の患者はそのうちの40%以上を占めています。
それは自殺が、うつ病の症状の一つであると同時にうつ病は死と直結した病気だとも考えることができます。
うつ病患者さんの自殺は、うつ病の初期と少し回復しかけてきた頃が最も多いと言われます。
症状が重い時は自殺する気力すら失われているので、自殺の可能性はそれほどありませんが、病気が少し回復して気力が出てきた頃が実は最も危ないのです。
うつ病患者さんの家族にとって、一番注意しなければならないのは、自殺なのです。
目次
「患者さんからのサインを見逃さない」
自殺をする人は、周りになんらかのSOSのサインを出すと言われています。
家族や周囲の人は、患者さんから以下のような言動が見られたら、様子を注意深く見ると同時に、医師に相談するなど早急に対処する必要があります。
○行動や態度の変化
急にお酒の量が増えたり、危険な行為を繰り返したりします。また、周囲と交流をしなくなり、部屋に引きこもるようになります。家族とも顔を合わそうとしなくなり、食事の量も減ります。
怒りっぽくなる、興奮する、落ち着きがなくなるなど気分が不安定になります。
○体調の変化
疲労感が強く特に朝になると体調が悪い、頭痛やひどい肩こり、便秘や下痢をする、寝つきが悪く眠れない(睡眠障害)、じっとしていられないなど体調の不良が見られるようになります。
○自殺をほのめかす言葉を口にする
「死にたい」「自分なんかいない方がいい」など直接自殺をほのめかす言葉や、「お世話になりました」「生きている意味がない」「将来に希望が持てない」「生きていても迷惑をかけてしまう」など死を暗示する言葉を口にしたら注意が必要です。
○身辺整理をする
手紙や写真などを整理しだしたり、大事にしていた物を人にあげたり、身の回りの整理をするような行動が見られたら要注意です。
「患者さんのサインを見つけたら…」
患者さんにこれらの行動が見られたら、「死なないで」「あなたが死んだら私たちは悲しい」という気持ちをしっかり伝えましょう。
患者さんは自殺を考えていても、頭の片隅では家族のことや、死に対する恐怖を思っているので、家族が気持ちを伝えることで、我に返ることもあります。
「死なないでほしい」という気持ちをはっきりと、そして何度も伝えましょう。
また、患者さんが衝動的に自殺をしないようにするために、自殺をしやすい環境に置かないようにしましょう。
通院や外出するときも、なるべく家族が付き添い、患者さんから目を離さないようにすることが大切です。そして患者さんの部屋には、刃物やロープなど自殺をはかりやすいものを置かないようにしましょう。
しかし、家族が1日中患者さんを見張っているわけにはいきませんので、自殺の兆候が見られたら、すぐに主治医に相談するようにしましょう。
「自殺したくなる時は…?」
実は自殺の多い季節や時間帯、曜日などがあります。
春は自殺が多い季節
1年は1月から12月までですが、これを年度で言うと、4月から翌年の3月までとなります。
実は、毎年、自殺者は年度の前後である、3月と5月に大きく増えています。
これは、いくつかの原因が考えられますが、学校、社会人も新しい年度を迎えて、生活環境の変化がありそれに対して不安などにより大きなストレスを抱えるからだと考えられます。
また、春は1日の中での気温や気圧の変化が大きく、自律神経の働きが悪くなり精神的にも不調になりやすい傾向にあることも要因と思われます。
自殺が多い時間や曜日
サザエさん症候群と言う言葉があるように、日曜夕方のサザエさんを見ると、ゆううつな気分になる人が多いのです。
とてもサザエさんの家庭と、自分自身の状況を比べてしまうという事もあるようです.
それ以外にも、休日の終わりを実感し、翌日からの仕事や学校のことを考えてしまい、不安を覚え、ゆううつな気分になると考えられます。
月曜日には要注意
また、月曜日は他の曜日に比べて、欠勤率が高く、仕事上のミスも一番起こりやすいと言われています。
月曜の午前中は、なかなかエンジンがかからないという方も少なくないと思います。
自殺も月曜日が一番多い曜日であるというデータが出ています。
火曜、水曜と日々が過ぎていくにつれて自殺の可能性は少なくなり、日曜日に2番目に多くなり、翌日の月曜日に再度、一番自殺が多くみられます。
睡眠不足で判断能力が低下
自殺は曜日だけでなく、時間も関係が深いのです。
一番自殺が起こりやすいのが明け方の5時や6時頃に、次に昼の12時頃や15時、18時頃に多いと言われています。
6時前後は、出勤前で、仕事に行きたくない、死んでしまいたいという思考になるのでしょう。
睡眠不足で判断能力が低下している状況や、反対に断眠により、テンションが高くなりすぎて、勢いで自殺を図るという場合もあります。
昼の12時や18時頃のピークはちょうどお昼休憩の時間や、退勤の時間と重なっており、過度のストレスから開放された瞬間と、自殺の関係があるとされています。
うつ病からの自殺は家族やまわりの人間が、患者さんからのサインを見逃さない事、迅速な対応で防ぐことが可能なこともあるのです。
記事監修・佐藤典宏(医師)
1968年・福岡県生まれ。
1993年・九州大学医学部卒業後、研修医を経て九州大学大学院へ入学。 学位(医学博士)を取得後、米国ジョンズホプキンス医科大学に5年間留学。現在は福岡県内の病院で、診察と研究を行っている現役医師。メディカルサプリメントアドバイザー資格